私の中でつぼみが輝いている。 デリケートでか弱い芽。 日の光をまだ知らないけれども、 もう一人ぼっちではない。 身体(からだ)ではなく、魂や愛や命で 私と芽は結びついている。 生涯で一番大切なのは あなたの母親になること。 お話を聞きたい? 花のお話よ。「花なんて面白くないじゃない?」と言ったら、あなたが男の子だと分かる。花が好きなのは女の子だから。チューリップから生まれた親指姫、夢をかなえる七色花、ダニーロ工匠と石の花、薔薇と星の王子さまの話。あの話も是非いつか一緒に読みましょう。では今日は、一番不思議な花の話をしましょう。 | ||
昔々あるところに魔法使いが住んでいた。優しい本物の魔法使いだった。魔法使いの目は青く、暖かい手をしていた。そして、花が大好きで、何よりも白蘭が好きだった。蘭について何時間も話したり、友達のように蘭に話しかけたりした。「花は生き物じゃない」とあなたが言ったら、「それは違うよ」と私は答える。よく覚えておいてね。花はちゃんと生きている。息もするし、成長もするし、ものも感じるから。花はそれぞれ花弁(はなびら)が違うだけでなく、性格も抱く夢も違う。 | ||
魔法使いはどんな摩訶不思議なことでもできた。石を水に変え、砂を金に変えることもできた。でも、それより白蘭を栽培することに関心が強く、愛しい花のために温室を建てた。温室は明るく、暖かく、居心地のよい、まるで私たちの家のようなところだ。魔法使いは小さな芽を激しい寒さや気温の変化やバイ菌から守るために、快適な環境を整えた。あなたはもう知っているとおり、花は生き物だから。その花には目も、鼻も、口もある。夜になると、毛布に包まるかのように花弁を閉じ、夜が明けたら目を覚まして、手を広げ、思いやりと愛情を求めて手を伸ばす。世話を怠れば死んでしまう。それから魔法使いは毎朝温室へ篭り、仕事に身を投じた。一日中試験管や、栄養剤などの蘭を栽培する人が普通持つ神秘的な道具を手にして、勤勉に働いていた。 | ||
こんなか弱いものを人工的な条件で栽培するために魔法使いはとても苦労したけれども、そんな日々にはいいことが起きそうな気がしていた。「蘭はいつも不思議だ」と彼が言った。「可能性や思いがけない発見にあふれている」 | ||
ある日、悲しそうな女の人が魔法使いの温室にやってきた。ずっと前から奇跡の白い花に憧れてきたと語った。「自分で育てようとしても何度も失敗してしまった」と彼女が言った。 「わたしが助けてあげるよ!」魔法使いが試験管の中にある小さな蘭の胚子を持ってきて、女の人に差し出した。「蘭を栽培するためにはたくさんの配慮や辛抱が必要だということを忘れないでください。蘭は赤ん坊のように無防備なので、愛され、受け入れる気持ちのあるところにのみ育つことができる。」 女の人は魔法使いが教えたとおりにした。そしてある日、小さな蘭がよみがえった。魔法使いは大喜びした。 「これはつぼみですね」と彼は嬉んでいる女の人に説明した。「もうすぐここには葉がたくさん生えるようになりますよ。この新芽は小さい指みたいな呼吸根ですよ」 | ||
9ヶ月ほど経った時、奇跡が起こった。つぼみが開花し、空気はすばらしい香りにあふれた。女の人が蘭に走りよって見ると… なんとすばらしいことでしょう! 緑色の枝には一つではなく、三つの大きな白い花が咲いていた。デリケートで爽やかな香りを発するのはその頭をうつむけた花だった。 「いい香り!花はこんなふうに息をしているのね」女の人が微笑み、蘭に顔を寄せてキスした。花は細い茎の上に揺れ、一瞬で目の前に広がった世界を驚いて眺めていた… | ||
それ以来魔法使いは蘭をたくさん栽培した。想像してみてください。花束にしたら大きなものになるだろう!しかし、自分のため栽培したわけではなく、自分と同じように花なしには生きられない人に全てを贈った。毎年四月に日差しが地を暖め、つぼみが起き、種が芽を出すころ、魔法使いのところに小さな白蘭を抱える多くの夫婦がお礼を言いにくる。 ここで話は終わりです。なお、最も重要な秘密は、私たちもいつかあの(お祝い→お礼)に行くということです。あなたが魔法使いの贈り物、私たちのあこがれの小さな『蘭』だから。私の中で早く成長して、花よ! 強くなって、芽よ! 私とお父さんがずっと待っていたから! |